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角丸飾り

日本産業カウンセラー協会50周年記念事業
メンタルヘルスセミナー 「うつ病への対応を考える 職場で何ができるか」

《2010年10月21日 アスティ4・5》
※一部で「メンタルヘルス」を「メンヘル」と省略しています。

開会挨拶

日本産業カウンセラー協会 理事 桑原 富美恵

 日本産業カウンセラー協会は1960年11月に設立された。時代背景は高度成長の入り口で工業化が進み都市に労働者が流入していたが、様々な理由で定着できない労働者がおり、その解消のためにカウンセリングが取り入れられていた。
 はじめは関西が活動拠点で、松下電器や電電公社・神戸製鋼などが主な企業であったが、この活動が関東にも伝播し協会は東京にて設立され、1970年3月に社団として認可された。
 1991年から労働省のカウンセラー技能審査団体となったが、2001年にはカウンセラー資格を協会の民間資格とした。
 現在は全国に13支部あり24,000人がカウンセラーとして所属している。道内は残念ながら471人で比較的まだ少ない。
 3万人を超える自殺が12年連続しており、その三分の一は勤労者である。この根絶に努力したいし役に立つカウンセリングを続けたい。
 北海道支部は年間200件以上の相談を受け付け、そのほかセミナーへの講師派遣では3万人が受講しているのが実績だ。今後もご支援をお願いしたい。



講演 「うつ病への対応を考える 職場で何ができるか」

北海道医療大学心理科学部教授 坂野 雄二 (日本うつ病学会理事)

1.今なぜうつ病なのか

 メンヘル問題がどのくらいの規模であるのかをまず説明すると、(財)労働行政研究所が上場企業300社を対象に08年に調査したところ、規模が大きくなるとメンヘル問題が増加傾向にあることがわかった。ただし、これはメンヘル問題が小企業にないとするものではなく、メンヘルを管理する部門が明確でないからわかっていないという面もある。1千人以上の企業では9割に「1ヶ月以上のメンタルによる休業」があり、従業員数では0.5〜1%がメンヘルで休業したことになる。
 また、日本生産性本部の産業人メンヘル調査04年では、企業の7割でメンヘルが増加し、その86%がうつであり、うつになった労働者の半分は30歳代であった。
 この調査の05年版では労働時間とメンヘルを調査しているが、それによると超過労働時間が60時間を超えると家族関係が変化し、自殺が増えているという。また、09年版では「不安」について調査し、「仕事に不安のない」のは25%にすぎない。これはバブル前に比較して半分である。また、メンヘルの問題では復職プロセスに半分が問題ありとしている。しかし復職問題がクローズアップされた背景には、それまで精神的な不調者は解雇されており、職場で大きな問題にならなかったからにすぎない。この解雇する傾向は道内ではまだ多いと感じるが、一般的には従業員のスキルアップ費用を考えると、精神的不調者を治療させ職場復帰に向かわせる方が、相対経費がかからないことは明らかにされている。
 厚労省は5年ごとに「労働者健康状況調査」を行っており、以上の調査と変わらないものとなっている。また、このほか、厚生行政としての患者調査では、08年調査では、精神疾患の患者数がアルコール依存5万人(横ばい)、不安障害60万人(若干増加)に対し、気分障害(うつを含む)は100万人で激増している。これを他の病気と比較すると、アトピー性皮膚炎が30万人、虫歯で160万人だから、虫歯にそのうち追いつくだろう勢いである。
 次に自殺者の数について検討する。H10年から急激に増加しているが、これは経済的な悪化が切っ掛けであるのは間違いない。ただし、女性は横ばいで男性が増加している。ただ、経済関係が好転したら減少するかというと、その後の何回かの経済的回復期にも好転していないのでそうは言えないだろう。男性で増加しているのは40〜50代の中高年であったが、ごく最近は30代が増えている。
 3万人の数はよく交通事故死と比較されその3倍といわれるが、例えばジャンボ機の定員が500人として年間60機が墜落する計算となり、これは毎週1機以上という数字となる。恐ろしい数だ。ただし、この数は死亡者のみで、未遂者や24時間以降の死亡者は含まれていないので、実際は膨大なものとなる。この理由は半数が健康問題で、うつが多いことは明らかである。

2.うつ病の治療法

 精神病一般についてもそうだが、うつ病についても誤解が多い。「憂うつになる」だけがうつ病ではない。
 東海大学の病院で調べたところ、一般受診患者の中で精神症状をもっていた患者は1〜3割で、その1割程度はうつであった。また、入院患者の3〜4割は精神症状を示しており、精神症状をともなう入院患者は長期化する傾向にある。従って、入院事項の治療と精神的治療を併行させる必要がある。
 脳卒中患者の2〜6割がうつ症状を示し、糖尿患者では9〜27%、ガン患者では20〜25%、末期ガンの場合は23〜58%がうつ症状を示す。一般的にうつの有病率は年間で2〜4%、生涯では7〜15%なので、何らかの病気で治療を受ける患者はうつの発病が高いことがわかる。
 また、心筋梗塞の死亡率では、うつの患者は2倍となっているし、心筋梗塞発症後の生存率も低くなっている。
 うつの症状は、抑うつ、思考抑制、微小妄想、精神運動抑制、不安・焦燥であるが、他に身体症状がいろいろある。特にその8割が睡眠障害を持ち、疲労倦怠感が顕著だ。日常の注意点はここが重点となる。しかし、このような症状が出ても、三分の二は内科を受診し疲労、自律神経失調などの診断になって、精神科や心療内科には行かないのではないか。従って、心療内科等の精神科に受診するのはうつ症状を何回か繰り返した後の、より重篤化している場合が多い。
 特徴としては、毎日ふさぐ、喜びを感じない、一と月で5%以上痩せるなどとなったら、医療機関の受診が必要となる。
 うつは一生の間で6%くらいの人がかかる病気だが、最初はストレスが引き金で発症する。しかし繰り返すことによって、理由無く発症に至るケースが多い。従って早期発見早期治療が重要なことだ。この繰り返しによって治癒が困難になる。1回目の発症では6ヶ月で54%が治癒するが、1年継続すると16%、2年で11%、4年で6%、5年たつと1%の治癒となる。
 また、再発が50〜60%と高く、基本的には慢性化が避けられないと考えるべきだ。双極性感情障害(躁うつ)におけるうつ状態とは全く別に考えるべきものといえる。
 しかし、うつ病は休養と服薬で治ることも事実だ。治療としては、抑うつ症状の改善、うつ増悪の防止、再発予防、社会的機能の復活(QOLの向上)を目指すこととなる。
 処置としては、薬物療法・心理療法、薬物・心理の併用療法、電気けいれん療法が用いられるが、大切なことは本人のペースに周りが合わせること、いつも通りに接し避けたり無視したりしないこと、薬とのつきあい方を覚えさせることなどがある。カウンセリングも重要な役割がある。
 大きな誤解として、薬に頼りたくない、たるんでいるからだ気合いで直せ、気のせいだなどという人がいて、これは病気を悪化させる原因だ。

3.職場での対応とストレスマネジメント

 H18年3月に厚労省から出された「健康保持増進のための指針公示第3号」では、セルフケア、ラインによるケア、事業場内産業保健スタッフ等によるケア及び事業場外資源によるケアの四つのケアが示されているが、セルフケアが一番重要なこと。特に、「(精神症状の)問題を示す」まえに「サインを示す」時点で対処することが重要だろう。
 うつへの対策で重要なことをまとめると、早期発見・早期介入であり、復職直後のストレス管理、さらに、ストレス脆弱性への理解である。セルフケアを進めるためには自己管理のサポートを体制整備することが、「適応」の促進となる。
 着眼点は、物理的環境への働きかけ(職場の配置・動線など)、雇用保障による不安解消、業務見直しで負荷を改善、技術(IT等)の活用で仕事の改善、交代制の調整など。

※ストレス脆弱性理論
 環境からくるストレスと個体側の反応性・脆弱性との関係で精神的破綻が生じるかどうかが決まるとの考え方。ストレスが非常に強ければ個体側の脆弱性が小さくても精神障害が起こるし、逆に脆弱性が大きければストレスが小さくても破綻が生ずるとする考え方。
 個体側の心理面の反応性、脆弱性を評価するため、1.精神障害の既往歴、2.生活史(社会適応状況)、3.アルコール等依存状況、4.性格傾向について評価し、それらが精神障害を発病させるおそれがある程度のものと認められるか否か検討する。

4.メンタル不全の予防

 一つは「考え方の介入」である。感覚は個人差があるが、コップの中の水を「まだ残っている」とみるか「もう残り少ない」とみるかに例えられる。業務についても、「何ともならない」か「何とかなる」かと考え方によってストレス度が全く違う。しかし、いわゆるプラス思考だけでは方向性が単調なので、行き詰まることが多い。むしろ、「柔軟思考」が大切だ。つまり、業務についていろんなルートを解決法として考えるような柔軟性だ。
 もう一つは「行動に注目」である。〜だろうという推測はやめること。ストレスコーピング(対処法)、スモール・ステップなど、よい面を増やすことを心がけるべき。つまり「ほめちぎる」ことに限る。
 三つ目は「ストレスへの介入」。ストレスをかかえている人には、直接的解決、情報の提供、共感を示す、期待すべき先を示すなどの介入方法があるが、一番は「期待」に応える機能が十分であること。「あそこの窓口に相談してみたら」と提案してあげられる機能ができていることが、本人を一番安心させる。企業の中にそのような窓口を整備すべきだ。  しかし経験から行って、このような窓口の周知は、中間管理職研修を行っても2〜3年して効果が出るもので時間がかかる。

 うつは予防可能な病気である。
 予防とは、診断の機会(健診項目に入れる)、睡眠の管理、軽い運動、家族とともになど職場で可能なことのほか、出産時ケア、思春期ケア、問題解決のスキル向上も重要なことだ。
 ストレスマネジメントとは、リスクマネジメントの一部でもある。手法は周知の方法でできる。予防に活用されたい。


※掲載内容は、当センター参加者のメモに基づくものです。

角丸飾り

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